【プロフィール】
株式会社hinata
代表取締役 須﨑 裕さん
1985年生まれ。大阪府出身。
ホテル勤務などを経て国際教養大学へ入学。在学時の2014年にトラベルデザイン株式会社を設立し、インバウンド開発や海外旅行客の受け入れ事業を行う。2021年4月に業態を転換し、社名を株式会社hinataに変更。仙北市田沢湖にスムージーとポタージュのテイクアウト専門店「ひなたエキス 田沢湖店」をオープン。同年8月からは「ひなたエキスkitchen truck」で移動販売を開始。2022年には自家製の果物エキスと野菜のペーストの商品化に向け、加工場とイートインスペースを併設した「ひなたエキス 秋田店」を秋田市雄和に構える。
「観光事業」から「飲食業」へ事業転換?!
−起業してから大きく事業を変えた理由を教えてください。
私は大阪から移住して、秋田の人が自然に近いところで生きていることを強く感じてきました。「自然の中にいると素直になれる。素になれる」。この心地よさを多くの人に知ってもらいたくて、まずは海外の人に魅力を発信しようと、旅行企画や旅行関係者に対するコンサルティングを行うインバウンド観光で起業しました。
でも、全く上手くいきませんでした。海外からの旅行者が全国的に増える一方、「高齢化」「人手不足」が顕著に進む秋田には新しいマーケットに攻められる観光事業者は少ないのが現実でした。そんな環境でコンサルは求められていませんでした。
地域が本当に求めているのは「既存事業者のサポーターではなく、自分自身がプレイヤーになる」ことだと理解しました。そんな時、コロナ禍がやってきました。インバウンドの仕事が激減し、「チャンス到来!」とばかりに事業内容をリセットすることを決意しました。
−その後、「ひなたエキス」という答えに行き着くまでにはどんなストーリーがあったのでしょう?
リセットを決めてから新規事業を始めるまでには、1年かかりました。「自然とつながる喜びを共有する」というミッションはそのままに、プレイヤー側になるために自分ができる範囲に落とし込むのに時間がずいぶんかかったんです。「乳頭温泉」のような憧れの温泉宿をやるにはリソースが足りないし、大尊敬している農家レストラン「ゆう菜家」みたいなことをやりたいと思っても、自分は農家ではないので栽培・収穫が自前でできない。ビジネスモデルは真似できないと気づきました。
そんな時、ふと羽後町の農家民宿「格山」を思い出しました。その民宿では、周辺地域から「お裾分け」してもらった作物で料理を作っていて、海外の人にも好評だったんです。その中にはいわゆる規格外と呼ばれる市場に出ない作物も多くありました。「自分たちも規格外の素材で何かできないか」「毎日作物が集荷するわけじゃないから、凍らせて保存したらいいんじゃないか」と考え、「スムージー」に行き着きました。その後「東京 スムージー」で検索してお店を回り、秋田にはないバナナやアボカドが使われていることを知った時はどうしようかと思いましたが…。「私たちはスムージー屋ではない」「自然の恵みを濃厚にお届けするひなたエキスを通して、自然とつながって欲しいんだ」とミッションに立ち戻って、地場の素材そのままの味でいくことを決めました。
資源の宝庫「秋田」で、ワクワクするほうへ進む
−秋田で起業する醍醐味は、何だと思いますか?
リソース(資源)だらけ!スペース(余白)だらけ!なところですね。特に道の駅は資源の宝庫で、売り場の商品から商談先を見つけることもあります。 スペースもたくさん余っています。「ひなたエキス 田沢湖店」は、右は乳頭温泉、左は田沢湖、真っ直ぐ行けば玉川温泉という位置にあった空き店舗を借りてオープンしました。最初は所有者が分からなかったのですが、たまたまストリートビューで「貸家」と書かれた看板を見つけて…。看板にうっすら見えた番号にすぐ電話して、やりたいことを話しまくって、出されるご飯を全部食べて仲良くなって、3ヶ月かけてOKをもらいました。
−仕事をする上で大事にしている座右の銘はありますか?
「カオスの中でシンプルに生きる」です。何が起きてるか分からない状態でも、進めばだんだん歩き方が分かってくるもの。私は小さい時からワクワクする方へ進む性格で、小学生の時、大きなカエルを見つけて、必死になってゲットして、学校の廊下を散歩させてみんなにめっちゃ嫌われたことがあったんですが…(笑)。新しいものを見つけるとうれしくて、自分で何かやってみたくなって、その面白さを共有したくなる、という部分は起業した理由と同じです。私は自分がやりたいことを実現するために起業しただけで、正直、起業は「めっちゃ大変」。それでもやってみたくて、ミッションに向かって走っていたら起業しちゃってたんですよね。
困った時は、専門家、先輩起業家、仲間に相談
−起業する時に大変だったことは?
事業は「やってみないと分からないこと」が多いんです。例えば、規格外作物の販売はSDGs的には良くても一級品しか出したくない農家さんにとっては気持ち良いことではない。また、多くの作物を「全量買取」しているため、時にはびっくりするくらいの量が届き、加工しきれず腐らせてしまったことも…。
加工の課題を解決するためにつくったのが2店舗目の秋田店。国際教養大学のすぐ隣に立地し、加工場を併設しています。現在20件ほどの農家と提携していますが、メロンが急に500キロきた!みたいな時には、バイトを頼める大学生にすぐ声をかけられる仕組みにしてあります。
−起業する時に助かったサポートは何でしたか?
地元の銀行がお金を貸す以外にも親身に関わってくれました。起業家は「やりたいことファースト」な人が多いので、マネーフローの基本やここが危険ポイントだよ、と教えてくれるのがありがたいですよね。行政からは、補助金の情報はもちろん、地元の農家さんを紹介してもらえたのが大きかったです。起業を通じて市町村役場の人とつながり、相談しやすい関係をつくれたことで、地域との間に立っていただけました。
失敗を予測してくれたりヒントをくれたりする先輩起業家にも、助けてもらいました。ビジネスの関係として出会うより、起業イベントや交流会で出会えると相談に乗ってもらいやすいかもしれません。県内にメンターがいると、会いたい時に会えるのでおすすめです。同じ段階にいる起業仲間も大事ですね。悩みは売上や従業員数によって変化するので、ステージが似ている人は精神上の支えになってくれます。
「悩んでいる」状態から一歩踏み出そう!
−これからについて、具体的な計画や目標を教えてください。
これまでの3年は「売る」「知ってもらう」が目標で、そういった意味でhinataの第一章は終了したと思っています。ここから始まる第二章は、ミッションである「自然とつながる」にもっと突き進んでいきたいです。
具体的には、スムージー以外の新しい商品を出していきたいと思っています。メインターゲットは、秋田を感じるためにわざわざ遠くから来た観光客。今はその場で楽しめるドリンクを提供していますが、今後は秋田の思い出を持ち帰ることができるギフトを増やしていきたいです。フルーツソース、椎茸パテ、ドライフラワーなど「秋田の自然を感じられる」ギフトがいっぱいありますが、自分たちだけでは到底実現できません。今後は他社とのコラボレーションも進めていきたいと思っています。
−最後に、起業を目指す人へのメッセージをお願いします。
「起業前」の悩みは尽きないものです。一方で、今抱える悩みは実際に起業してみると無くなっていることが多かったりもします。
そんな人たちに「一歩踏み出そう!」という言葉を贈ります。頭の中にあるイメージを一つ一つ現実に変えていくことで前に進んでいきます。起業関連イベントに参加する、交流会で全員と名刺交換する、何でもいいので歩みを進めて欲しいです。同じステージの仲間ができればまた一歩進みやすくなりますので、起業する前の人たちの集まりもおすすめですね。同じステージからひと足先に誰かが次のステージに行った時なんかは、良い意味で焦ることができますよ!
(2023年11月インタビュー)
株式会社hinata
設立:2021年4月8日
住所:〒010-1211秋田市雄和椿川奥椿岱194-1
URL:https://www.hinataekis.com/