竹内大さん

【プロフィール】

2001年生まれ、大阪府出身。
秋田県立大学生物資源科学部アグリビジネス学科3年生。1年生の時、同じ大学に通う谷口夏鈴さん、萩原七佳さんと起業を目指すグループを結成する。2022年6月、秋田県産の米粉を原料に使うラムネ菓子「こめらむね」の販売を開始。同年、「みんなが贈りたい。JR東日本おみやげグランプリ2022」でエリア賞を受賞。北東北エリアでお客様からの得票数1位を獲得する。2023年秋には、三種町にある「旧下岩川診療所」を加工所とし、販売規模を拡大させている。


起業は「理想の暮らし」を手にいれる手段

−竹内さんが手掛ける「こめらむね」はどんな商品ですか?

「こめらむね」は、通常ラムネに使われるコンスターチをあきたこまちの米粉で代用したお菓子です。道の駅へのヒアリングを通じて、地元の米粉を使った新しいおみやげ文化を創る事業を構想し、「受験勉強のお供」として私たち3人にもなじみ深かったラムネを商品化しました。「グルテンフリーで健康的」「優しい味で甘いものが苦手でも食べやすい」という声や、「秋田の郷土菓子”もろこし”に食感が似ていて親しみが持てる」という思いがけない声をいただいています。

味は3種類です。大潟村の無農薬リンゴジュースを使った「りんご味(通常版)」、鹿角市の不揃いいちごのシロップを使った「いちご味」、秋田県立大学の研究機関「木材高度加工研究所」の木材加工技術を使った「秋田杉の味」。パッケージデザインも様々なバリエーションを用意し、「選べる」売り場作りを目指しています。当初は3人で製造していたんですが、今は地元のお母さんたちにアルバイトをお願いしています。私たちより早くて上手なんですよ(笑)。

こめらむね
(口の中でシュワっと溶けてほんのり甘い「こめらむね」)

−起業のきっかけは何でしたか?

前々から、自分で自分の予定を決められる自由さや、アイデア次第でどんどん上を目指せるある種のゲーム性のような部分に惹かれ、起業に魅力を感じていました。高校時代には、父親がアパレル業だったこともあり古着屋の経営にチャレンジしました。商談の仕方や収支の計算など学びが多く、1年休学して本気で取り組みましたが、ビジネスは楽しいけれど、自分は古着が好きなわけではないと気づいて…。そんな時、趣味の旅行で訪れた秋田のことをふと思い出しました。旅の中で感じた「雪国で田舎暮らしをしてみたい」という思いを叶えるため、古着屋を畳んで、秋田の大学への進学を決めました。

大学入学後、秋田のことはすぐに気に入りましたね。ここで住み続けるなら卒業後の仕事が必要だと思って起業を考え始めましたが、いろんな人から「一度就職したほうがいい」と言われました。でも、とにかくリクルートスーツを着たくなくて(笑)。それに、きっと就職したら起業を準備する時間なんてないから、学生のうちに起業しようと思いました。最初は1人でやろうとしてたんですが、友人の2人が興味を持ってくれてチームで挑むことにしました。

竹内さん
(3人でビジネスを動かすのは楽しい!という竹内さん)

助け合える関係性が大切

−秋田で起業する醍醐味は、何だと思いますか?

起業人口が少ないにも関わらず補助金が手厚く、ビジネスを始めやすい環境があることですね。家賃が安いのも大きいと思います。
それに、上場企業が少ない秋田で「やりたいことで稼ぐ」なら、自分で就農したり起業したりするのは一つの手ですよね。会社に勤めると生涯でもらえる金額は決まってきますが、起業すれば天井がない。もちろんリスクはありますが、上を目指す面白さが起業にはあると思っています。失うものが何もない学生時代に、初期投資を補助金で賄いつつ起業するのもけっこうアリだと思うんです。失敗したとしても、起業の経験自体は就職にも活きてきますしね!

−仕事をする上で大事にしている座右の銘はありますか?

とにかく周りに甘えまくること!そのために、困った時に甘えられる、助けてもらえるような人間関係をつくること、でしょうか。シンプルなことなんですが、お礼を言う、感謝を手紙にする、一つ一つの関係を大事にするようにしています。

下岩川診療所
(加工所として借りている2021年に閉所した下岩川診療所)

「やり切る」信念と手厚いサポートで苦難を乗り越える

−起業する時に大変だったことは?

常に大変でした(笑)。レシピ作り、パッケージデザイン…、初めてのことばかりですからね。おいしいラムネを作るのも大変でした。米粉とりんごジュースと型を買って、ちょっとずつ材料の割合を変えてサンプルを大量に作って、狭い学生寮に並べて1日干して。苦いラムネや、石みたいに硬いラムネができたことも。パッケージの印刷会社が倒産して、1ヶ月半欠品になった時も大変でした。次の業者が見つかるまでは収入がない状態。このまま辞めたら「自分」を表すものがなくなってしまうと思い、新しいパッケージの製作に奔走しました。

−起業する時に助かったサポートは何でしたか?

何度でも無料で相談できる(公財)あきた企業活性化センターの秋田県よろず支援拠点です。パッケージのデザインや販売チャネルの開拓について相談したり、商標登録のやり方も教えてもらいました。

とにかくお金がなかったので、行政の創業支援補助金も助かりました。学生が申請した前例がなかったようなんですが、無事に審査を通過し、材料費やパッケージ印刷代、パソコンなどの備品購入代に使いました。

秋田県立大学が親身になってプレスリリースに協力してくれたり、オープンキャンパス用にこめらむねを仕入れてくれたのもうれしかったです。中でも、大学の地域連携・研究推進センターのコーディネーターである泉牧子さんは私たちをずっと応援してくれていて。地域につないで製造アルバイトや製粉所を紹介してくれたり、本当にお世話になっています。

乾燥機械の中で出荷を待つこめらむね
(乾燥機械の中で出荷を待つこめらむね)

秋田の人のあたたかさを借りて、とにかく行動!

−これからについて、具体的な計画や目標を教えてください。

実は、こめらむね以外に2つの事業をスタートさせようと考えています。一つは秋田県よろず支援拠点に紹介してもらった仙北市角館町のおいしいあんこ屋さんとタッグを組み、そのエリアでしか食べられないお菓子を製造する計画、もう一つはクラウドファンディングを活用し、県内に数が少ない果物の果汁を搾る搾汁工場を造る計画です。「田舎で暮らす」という夢を叶え続けていくためにも、もっと仲間をつくって事業規模を拡大していきたいと思っています。

−最後に、起業を目指す人へのメッセージをお願いします。

机上の空論ではビジネスは動かせないので、とにかく動く!行動する!が大事です。計画書は大事ですが、その通りになる企業なんてないんですよ。頭の中で考えているだけで機会を逃しちゃうともったいないです。

不安もあると思いますが、秋田は助け合いの気持ちがすごく強い県民性です。近所の人が柿やお米をお裾分けしてくれたり、雪道で車が動かなくなって困っていたら周りの人がどんどん集まって一緒に助け出してくれたり。都会にはない「人を助けよう」という精神が秋田にはあるので、協力してくれる人が必ずいるはずです。勇気を出してみてください!

キャンピングカーに乗る竹内さん
(キャンピングカーで三種町の加工所や大学、県内各地を行き来している竹内さん。バイタリティがすごい!)

(2023年12月インタビュー)


こめらむね製作委
設立:2021年12月
住所:〒018-2302 秋田県三種町下岩川長面谷地39-2
URL:https://komeramune.studio.site/