3人で写真を撮る様子

【北秋田市とZeroToInfinity株式会社の実証事業連携協定について】

ZeroToInfinity 株式会社
代表取締役 佐川亜希さん(写真右)
取締役 佐藤奈緒子さん(写真左)

北秋田市産業政策課産業戦略係
主幹兼係長 千葉祐幸さん(写真中央)

2023年6月、秋田県北秋田市とZeroToInfinity株式会社(本社東京都、2019年設立)は「メンタル不調悪化兆候検知システムHaCha(ハチャ)を活用した就労サポート実証事業連携協定」を締結。北秋田市にある「社会福祉法人県北報公会」と「一般財団法人たかのす福祉公社」が運営する2施設で、HaChaを活用した実証実験を実施した。実証実験では、合計29名の利用者や通所者のメンタル不調に関する悪化兆候を検知して、職員にいち早く知らせることによる有効性を検証。安定的な支援の提供や、利用者の状態の見える化による業務の負担軽減や効率化を目指した。実証期間は、2023年6月~8月。


メンタル不調や不自由さを抱えた人へ、安定した毎日を

−はじめに、ZeroToInfinityさんの事業内容を詳しく教えてください。

佐川さん:私たちの会社は、AIやカメラセンサーを使った画像解析を得意としています。この技術は人の生体情報、農作物の生育状況、害獣の検知など幅広い分野で活用できるもので、私たちはこの技術で社会課題・地域課題の解決を目指しています。

中でも、障がいを持つ人がメンタル不調・体調不良を抱えていても安定的に働くことができる社会をつくることは、私たちが起業を決意した大きな理由の一つです。

−今回の実証事業で使われた「HaCHa(ハチャ)」はどんなサービスですか?

佐川さん:正式名称は、Happy Challenge(ハッピーチャレンジ)。出勤時に顔の画像を撮って記録することで、その人のオリジナルデータ解析を行うシステムです。Webカメラに顔を映すことで脈拍・自律神経の状態を検知し、現在のメンタル・体調の状況をAIが診断してお知らせします。

自分で自分の不調に気づくのって意外と難しいですよね。HaChaなら客観的なデータに基づいて体調を確認することができるので、メンタル不調・体調不良で倒れてしまう前に速やかにサポートにつなげることができます。約3年かけて開発し、社会実装に向けて実証実験の連携先や場所を探していたところに、今回北秋田市さんが実証フィールドを与えてくださいました。

実証事業連携協定の記者会見での1枚
(実証事業連携協定の記者会見での1枚)

トライなくして解決なし!地方の熱意が実証事業を後押し

−北秋田市での実証事業が実現するまでには、どのような経緯があったのでしょう?

佐川さん:きっかけは、東京都が運営している「NEXs Tokyo(Nexus Ecosystem Xs Tokyo)」のスタートアップ支援プログラムで選出されたことです。全国各地と連携しながらスタートアップの成長を支援するこのプログラムで、北秋田市の千葉さんを紹介していただいたんですよ。「千葉さんはスタートアップにコミットする熱意がすごい!」とNEXs Tokyoの担当者から聞いていたので、こちらから熱烈にアプローチしました(笑)。

千葉さん:北秋田市は、以前から連携自治体としてNEXs Tokyoに登録していました。佐川さんたちと連絡をとり始めたのは2022年9月のこと。依頼があった4日後にはオンラインで顔合わせをして、翌月には現地に来てもらって打ち合わせをしましたよね。

佐川さん:そうでしたよね。実際千葉さんとお会いして、そのスピード感と、私たちがやりたいことについてすごく熱心に聞いてくれたことが印象に残っています。

千葉さん:少子高齢化や人口減少など多くの課題がある北秋田市では、「トライなくして解決なし!」という土壌が近年できてきているんですよ。市長も「新しい取組をどんどん進めてほしい」と話していますし、偶然にも、佐藤さんのお父様が北秋田市出身というご縁も相まって、どんどん話が進んでいきましたね。

−実際に実証実験をやってみて、どうでしたか?

佐川さん:当初思っていたよりもスムーズに実証実験ができました。HaChaは、毎朝出勤した時に、施設の入口で20秒〜1分ほどPCの前に座って画像を撮影するんですが、利用者さんから「めんどくさい」という声が出ないかと実験前は心配していて…。

佐藤さん:パソコン操作に抵抗がある人もいるだろうと思っていたので、できるだけ簡単に、手間なく使用できるようにと、アプリの操作方法を工夫して挑みました。

佐川さん:でも実際は、施設の職員さんがうまくルーティン化してくださったので1ヶ月もしないうちに習慣化して、離脱する人がほとんどいなかったんです。結局アプリはアプリでしかなくて、いかに日常に組み込んでもらうかがポイントなんだ、と分かったのは大きな成果でした。

千葉さん:施設の理事長やセンター長から「職員が積極的にHaChaを使おうとしていた」と聞きました。職員も、利用者さんが安定的に働ける環境をどうにかしてつくりたいと日頃から思っていたのだろうなと。実証実験期間中、私が大事にしていたのは、頻繁に当市へ来ることができない佐川さんたちに代わり、行政としてしっかり間に入って行動するということです。施設の職員と顔を合わせた時には、毎回「どんな感じですか」と声かけしていました。

佐川さん:職員さんからは、「どう使えばHaChaがもっと良くなるのか」についての具体的なフィードバックもたくさんいただきました。お願いされたからやっているのではなく、一緒に「より良い世界をつくろう」と考えてくださっている熱意を感じ、とてもありがたかったです。職員さんたちとは対面でご一緒したのはほんの数日だけだったんですが、秋田と東京の距離を感じないほどに関係性をつくることができました。

現場に設置されたHaCha
(施設に設置されたHaCha)

課題先進地の地方から、新しいチャレンジを生み、育てる

−秋田で実証事業を行う魅力は何だと思いますか?

佐川さん:現在、人口減少や少子高齢化などの社会課題が世界で最も表出しているのは、この日本です。ただ、人口の多い東京で活動していると、本当の意味でそれらの課題に触れることは難しいと思っています。社会課題の解決を目指す私たちにとって、課題を肌で感じられる秋田での実証事業はとてもありがたい経験なんですよ。

佐藤さん:秋田をはじめ、地方で起業する人はまだまだ少ないのが現状です。でも、だからこそ、新しいチャレンジをしようとする時には、行政などの支援機関から丁寧に伴走してもらえます。それは秋田で活動するメリットの一つかもしれません。

千葉さん:北秋田市の人口は2万9千人と中規模なので、何かをやろうとした時にいろんな人を巻き込みやすいのが強みです。私は以前、障がい福祉分野の担当だった経験があり、「障がい者雇用の受け入れ整備が進んでいない」という地域課題を感じていました。だから佐川さんたちのお話を聞いて、すぐに「「市として協力することで、きっと地域にも良い効果が生まれる」という考えに至り、協力してくれる地元の事業者とスピーディにマッチングすることができました。

−最後に、これからの具体的な計画や目標があれば教えてください。

佐川さん:北秋田市さんとこれからもご縁を持ちながら、「障がい者支援」を切り口に今回とは別の課題にも関わりたいと思っています。内容によっては、現場へのカメラ設置や保守作業が必要な場合もあるかもしれません。その場合には現地の人員が必要になるので、スタッフ配置型の事業も作りたいと思っています。

佐藤さん:秋田は、課題の先進国である日本の中でも、さらに課題先進地域です。だからこそ、秋田で事業の効果が実証できれば、全国どこにでも広げていけると思うんです。今後も可能性を探っていきたいですね。

千葉さん:今回実証事業に協力してみて、もっと現地に足を運びやすくなるサポートができたら良かったと思いました。もちろんオンラインでもある程度のことはできますが、必要な場合は何度でもお越しいただけるように、令和6年度は費用面を支援する制度を整備する予定です。 あと、本音を言うと、企業誘致にも結びつけたいですね。将来的に、例えば、ZeroToInfinityさんのサテライトオフィスがこっちにできて、そこで現地採用をしてもらったり、採用情報を地元の高校生向けに展開できればさらにいいな…と夢は広がります。

ZeroToInfinityが北秋田市で実証事業の説明を行う様子
(ZeroToInfinityが北秋田市で実証事業の説明を行う様子)

(2024年3月インタビュー)


【ZeroToInfinity株式会社】
設立:2020年2月4日
住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿2丁目12番13号 新宿アントレサロンビル 2階
URL:https://www.zti.co.jp/