【プロフィール】
株式会社このほし
代表取締役 小原 祥嵩 さん
【R6年度AKISTA認定スタートアップ】
1982年、兵庫県生まれ。
2006年から東京のIT企業で戦略コンサルタントとして、さまざまな業界の組織改革や業務変革を支援。2010年、企業や教育機関向けの教育プログラムを提供する「ハバタク株式会社」を設立。2011年にはベトナムオフィスを立ち上げ、東南アジアで人材育成や事業展開支援を行う。同社の拠点を秋田県五城目町に置いたことを機に、2020年に家族と共に同町へ移住。2021年に「株式会社このほし」を創業し、地域の自然や資源を活かした事業を展開。2024年7月、AKISTA認定スタートアップに選定。2024年10月には、Central Japan Seed Fundとあきぎんキャピタルパートナーズから資金調達を実施した。
自然好きがきっかけで始まった「ツリーハウス」が出発点
ー秋田に移住してからの活動について教えてください。
私は、当時共同経営していた「ハバタク株式会社」が秋田県五城目町に拠点を作ったことがきっかけで移住しました。しかし、その直後にコロナ禍になって、それまでの海外・教育事業がすべてストップしてしまったんです。やることがなくて暇になってしまったので、釣りに行ったり山に行ったり、五城目町の人や自然に触れる機会が結構ありました。そういった交流をしているうちに自然が好きだった自分を思い出し、前から憧れていたツリーハウスを作ってみようと動き始めたのが最初の活動です。
当初は会社を立ち上げるつもりはなく、単純に「ツリーハウスを作りたい」というだけだったんです。しかし、だんだんと周囲に共感してくれる人たちが集まり、場所の提供やクラウドファンディングでの資金協力を得て、ツリーハウスを完成させることができました。
ーその後、会社を立ち上げたのはなぜですか?
ツリーハウスのプロジェクトを通して、「森で遊ぶ」というテーマには大きな可能性があると感 じたからです。ただその一方で、管理が行き届かなくて荒れた山の存在や、「森は危険だから近づかないように」と指導され家でゲームばかりしている子どもたちの現状、さらに、水害が激甚化している背景には間伐された木を山に残さざるを得ない状況があることを日々の暮らしの中で知ったのも大きなきっかけです。そういった現状を目の当たりにして、森にまつわる根本的な課題を解決したいと考えるようになり、「株式会社このほし」を立ち上げました。
多彩な事業で森と地域をつなぐ
ー2024年12月に開設した「あなたの山の相談窓口」について教えてください。
「あなたの山の相談窓口」は、全国的に課題となっている地方の放置林の増加を食い止めるため、個人が所有する森林の管理や活用の悩みを解決するサービスです。例えば、「親から受け継いだ森がどこにあるか分からない」といった相談に応じて、当社の「山の専門家」が登記確認等を代行し、適切な管理や活用法を提案します。もともと行政と協力して森林調査を行う事業を考えていましたが、よりスピード感があって、かつ収益性の高いビジネスモデルへと方向転換しました。
ー他にはどのような取り組みをされていますか?
現在準備を進めているのは、水道や電力を自給自足するオフグリッドキャビンを森の中に設置し、宿泊体験を提供する森の宿泊サービス「awake」です。宿泊者にはインフラゼロの森の中で、自然と調和した快適な時間を過ごしていただき、地域の自然や文化に触れる体験を提供します。森林は貴重な資源ですが、国産木材が売れにくい現状では、木材生産を目的とするだけでは森を守るモチベーションが湧きません。awakeでは、宿泊者への価値提供はもちろんですが、土地の賃貸料や、地域住民が「地域ホスト」として来訪者に送迎や食事を提供してその対価を受け取るなど、地域にお金がまわる仕組みづくりを目指したいと考えています。
他にも、自治体や企業向けの「脱炭素化推進コンサルティング事業」、学校や子どもたちが対象の自然体験プログラム「このほし森の学校」などを行っています。
スタートアップならではの苦労と、世界へ広がるビジョン
ー秋田でスタートアップを立ち上げてみて、どうですか?
資金調達は難しいですね。首都圏と違い、秋田にはスタートアップへの投資機関(ベンチャーキャピタル)がほとんどありません。そのため情報収集の難しさや、資金調達までに時間がかかるという現実はどうしてもあります。私は県外のピッチイベントなどに積極的に参加して、同じ成長ステージの起業家や投資家とつながり、資金調達や人材採用に関するリアルな情報を収集するようにしています。
また、どの事業に力を入れるべきかの判断も悩みどころです。「森の学校」のような収益を目的としない活動も進めたいですが、まずは収益を生む事業を優先する必要があって、このバランスをどう取るかは、時間とリソースが限られているスタートアップならではの悩みですね。
ー事業を通じて解決したい秋田の課題や社会課題は何でしょう?
秋田の暮らしは、外から見ると非常に豊かです。渓流、海、山、四季折々の美しい風景がここにはあります。でも、こうした自然の近くに住む人たちが、その価値を感じていないように思うんです。その認識が変わらない限り、森林を守ろうとは思わないでしょう。別に「守らなければ」という正義感で動く必要はないんです。森林をうまくビジネスに組み込むことで、関わることが楽しくてお金にもなるという、ポジティブな気持ちから森への関わりが生まれる仕組みを提供できたらと思っています。
ー今後の展望や具体的な目標について教えてください。
今取り組んでいるawakeをさらに広げ、収益を生み出せることを示したいと考えています。「awakeを自分の山や地域にも作りたい」「この森は良い場所だ」という声が増えるようにしたいですね。
また、森を「価値を生む場所」に変えていくというビジネスモデルは、日本国内だけでなく、海外にも展開できると考えています。以前住んでいたベトナムでも、メコン川流域で環境問題が起きてるんですよ。適切に自然資源を活用することへのニーズは、世界的に広がってきています。秋田での取り組みを基盤に、このモデルを世界へ展開していきたいですね。
秋田で起業する魅力は「県を挙げての応援」と「”危機感”があること」
ー秋田で起業する魅力や地域のポテンシャルについて教えてください。
秋田で起業する魅力は、スタートアップを全力で応援してくれる環境です。もし同じことを東京でやったら、数多くあるスタートアップの一つでしかないので見つけてもらえない可能性がありますからね。秋田はスタートアップが少ない分、県を挙げて応援してくれるのがありがたいです。
また、自然資源が豊かで、私たちのような森林活用の事業には最適な場所でもあります。現状の森林環境に危機感を持っている人も地域にいて、「自分たちと違う切り口で森に関わってくれるのはありがたい」と言ってくれます。秋田は高齢化が進んで社会課題が顕在化している地域だからこそ、多くの人が「地域をなんとかしなくては」という意識を持っていて、それが私たちにとって追い風になっていると感じます。
ー「AKISTA認定スタートアップ」に選ばれてどう感じていますか?
行政や外部の審査で認められたことは純粋にうれしいです。私のような県外から来た「よそ者」でも関係なく応援してくれて、AKISTAプラットフォームに参画している大手企業が、認定を受けたことで話を聞いてくれるようになったのも大きいです。秋田は人のつながりが濃い地域で、「あの人に会いたい」と言えば会えることも多いですが、認定されたことでそのプロセスはさらに加速しました。
ー最後に、秋田を起点に起業や事業成長を目指す方へのメッセージをお願いします。
秋田で起業するなら、小さくまとまらないほうがいいと思います。秋田は起業する人が少ないので、起業すればすぐ応援してもらえる環境にありますが、その応援に甘えて自分はイケてるんだと勘違いしたり、天狗になってはいけません。本当に社会を変えるつもりなら、自分のサービスがグローバルで通用するクオリティかどうかを問い続ける必要があります。私自身、のぼせ上がらないためにも、県外での投資家レビューやピッチイベントなど、積極的に外へ出ることを心がけています。スタートアップと名乗るからには、自分の事業が「これなら世界に出しても恥ずかしくない」と思えるものであり続けるよう、頑張っていきましょう!
(2024年12月インタビュー)
【株式会社このほし】
設立:2021年7月
住所:〒018-1706 秋田県南秋田郡五城目町字下タ町17-4
URL:https://konohoshi.net/