【プロフィール】
株式会社Local Power
代表取締役 寺田 耕也 さん
【R6年度AKISTA認定スタートアップ】
1980年、東京都生まれ。
ヘルスケア企業勤務を経て、2003年に秋田市へ移住し、衆議院議員秘書を10年務める。2013年に株式会社Local Power(ローカルパワー)を設立し、現在の主力製品である除菌消臭水「iPOSH(アイポッシュ)」の製造・販売を2014年から開始した。現在はiPOSHをはじめとしたプロダクト事業、時間貸し体育館「みんなの体育館 やばせ」などのシェアリング事業、企業の課題をITで解決するソリューション事業を三本柱にビジネスを展開している。2024年7月、AKISTA認定スタートアップに選定。
安定した品質を実現!iPOSH開発の舞台裏
−まず始めに、主力製品の「iPOSH」について教えてください。
「iPOSH」は、特許製法の「イオン交換法」で生成した次亜塩素酸を使った除菌消臭水です。次亜塩素酸は高い殺菌力と安全性を兼ね備えていますが、時間とともに濃度が下がるという課題があります。そこで、不純物を極限まで取り除き、濃度が高い状態を保てる独自の特許製法を使って、安定した品質で提供できるようにしたのがiPOSHです。多くの医療機関や薬局などで採用していただき、大手メーカーのようなブランド力がなくても、医療関係者に認めてもらうことで信頼性を高め、市場を広げていく戦略をとっています。
iPOSH以外にも、低刺激・高保湿が特徴のヘパリン類似物質配合のオールインワン保湿液「Pharmal(ファーマル)」も開発しました。全国展開する薬局グループと連携してマーケティングを行い、ニーズを事前に掴んでから開発を進めたことで、発売と同時にその薬局グループ全店で取り扱われ、すぐに利益が生まれました。
−iPOSHの開発にはどのような経緯があったのでしょうか?
実は、iPOSHにいきつく前に営業代行とオフィスコンビニ事業を行っていたんですが、どちらも採算が合わずに断念しました。3つ目に手がけたのがiPOSHです。化学メーカーの研究者だった父が、退職後に特許を取得した次亜塩素酸の生成技術を、私が引き継いで事業化しました。
技術的な専門知識のない私がiPOSHを商品化することができたのは、秋田県産業技術センターが秋田県にかほ市にある三浦電子株式会社につないでくれたことが大きいですね。殺菌性電解水の装置を開発している三浦電子さんは当初、「濃度が落ちやすい次亜塩素酸をボトリングして売るのは難しい」と考えていました。それが業界の常識でしたから当然です。それでも県産業技術センターの紹介であることや地元企業ということから話を聞いてくれて、ボトリングしたiPOSHの濃度を調べてくれたんですよ。するとしっかり濃度が保たれていると分かり、本格的に協力してもらえることになりました。私も毎週のように三浦電子さんのところに通わせてもらうことで様々なことを学ばせてもらい、iPOSHの製品化を実現できました。
スポーツ施設からDX支援まで——秋田発のビジネス工場
−他の事業についても教えてください。
シェアリング事業では、完全予約制の時間貸し体育館「みんなの体育館」を運営しています。もともとは、自分の子どもとサッカーやテニスをしたくて、思い立った時にパッと予約出来て思う存分使える場所があったらいいなと思っていました。そんな中、同年代の保護者やスポーツ指導者との会話から、安定して利用できる場所の確保が大変で、子どもたちのスポーツ活動や教室の運営に課題がある現状が分かってきて、それならみんなで使えるものを作ろうと事業化することにしました。この事業は、地域課題解決に向けたアプローチの独自性や柔軟性、他地域へ展開できる可能性が評価され、2024年のグッドデザイン賞を受賞。これをきっかけに当社への地域の人たちの関心も高まり、人材採用にも良い影響が出ています。
ソリューション事業では、今秋田や地方で一番課題となっている企業の人材不足やDXを支援しています。この事業は、iPOSHの成長に合わせて取り組んできた業務効率化のノウハウを提供することで、地方企業の優位性や競争力の向上、地方活性化の一助にもなればと思って取り組んでます。例えば、導入コストが高い基幹システムの代わりに、クラウドを活用した低コストのシステム連携手法の提案などを行っています。また、秋田の地理的なハンデを解消するため、当社の物流網を活用し、製造から発送までを一貫して管理する仕組みも構築。現在、県内外の医療業界への展開を図っています。

−事業を通じてどんな社会を実現したいですか?
当社のコンセプトは、「地方発のビジネス工場」です。「地方の力で社会を変えたい」という思いで事業を展開しています。地方の力を使ったビジネスが工場のように次々と生まれ、成長していく仕組みを作りたいんです。優れた技術を持つ三浦電子さんのような企業が、秋田にはたくさんあるので、業界を超えて企業それぞれの強みを持ち寄り、チームで取り組めば、地方でもクオリティーが高く面白いことができるんです。実際当社の事業も、地域の事業者さんとの連携なくして成り立ちません。
秋田に、次世代の起業家を増やしたい
−秋田で起業する魅力についてはどうお考えですか?地方ならではのポテンシャルなどもあれば教えてください。
秋田は人との距離感が近く、「この事業をやりたい」という強い気持ちさえあれば協力してくれる人につながれるのが魅力です。県内の一流人材とつながることができれば、その先に東京や世界の超一流人材とつながることも可能ですよ。また、コスト面でもメリットが大きいです。例えば「みんなの体育館」は、東京ではコストが高すぎて試すことすら難しいですが、秋田の家賃は東京の6分の1程度なので、まずは低コストで事業を回して実験することができる。そのサービスがうまくいけば、県外に打って出ることもできます。
さらに、メディアが地元の事業者を自分ごとのように応援してくれるのもうれしいですよね。今の時代、地元紙に載っても全国紙に載っても、ネット検索で同じように情報が広がるので。
−今後の事業の展望について教えてください。
現在、アクアポニックスの事業化を進めています。これは当社の水の加工・分析という強みを生かして、野菜の無農薬栽培と魚の陸上養殖を同じ水槽の中で行う技術で、社内に野菜栽培の経験者と魚マニアがいたのがきっかけで開発が始まりました。野菜収穫は就労支援施設とも連携しているのですが、道の駅での野菜の販売実績も良く、手応えを感じています。
そして、これからはさらに突き抜けた実績を作りたいですね。地方でも成功できるという姿を発信し、秋田に起業家を増やしたいんです。私自身は、新卒の時に都会の暮らしや社会に適応できず挫折したという経験があります。秋田に移住して議員秘書の仕事をしていた頃も「自分は何もできない」と落ち込むことがありましたが、秋田の人とつながり、事業を通じて成長させてもらい、どんどん幸福度が上がっていったんです。もしあのまま東京で働き続けていたら、きっとこうはなっていなかったと思います。私は秋田に育ててもらった人間です。そんな自分のような幸せな人を増やせたらなという思いがあるんです。
AKISTAがつなぐ支援の輪
−「AKISTA認定スタートアップ」に選ばれて、どう感じていますか?
今は、コロナ禍が終わり、会社としてはいろいろとあがいているタイミングです。まさに転換期なのですが、認定されたことで責任感が生まれ、心の支えになっていますね。また、AKISTAの伴走支援がきっかけとなり、当社製品を必要としてくださる全国の方に、より効率的にお届けできるビジネスモデルにチャレンジできています。
−最後に、起業を目指す人へのメッセージをお願いします。
秋田の人たちは、熱意があればみんな協力してくれます。AKISTAが立ち上がったことで、支援者や協力者が集まる「枠組み」ができましたし、秋田県庁の職員さんも「あなたならできる」とうまく煽ってくれますよ(笑)。これは、起業する側には最高の環境が整ってきたと言えると思います。
こういった環境を最大限生かすためにも、起業を目指す若手には、自分が何をやりたいのか、何を協力してほしいのかを、しっかり考え言葉にすることが大切だと伝えたいです。私にとっても若手起業家の話を聞くのは学びになります。彼らのピュアな姿を見ていると、起業家としての自分を見直すきっかけになったり、「もっと頑張りたい」と思えるような刺激をもらえますから。
(2025年2月インタビュー)
【株式会社 Local Power】
設立:2013年11月25日
住所:〒010-0962 秋田県秋田市八橋大畑2丁目3-1
URL:https://lpower.jp/